Mag-log in後一歩のところで上空に感じた覚えのある魔法陣が闘技場全体を覆う。
お互いに戦闘を瞬時に中断し、
何が起きているのか情報を集めようと周囲を見渡す。(これはユニコーンの時と種類は違うが、同じ奴が起動しているな。
となると魔法が飛び交っていた闘技場の魔力を使ってまた魔物を召喚するつもりか? だがそれならもう対策はある)彼が右手を空に掲げ、自身の知覚できる感覚を広げる。
仮想的に可視化させた周囲の環境を取り巻く魔力を一点に集めるべく、
魔力糸無しで念動魔法を発動させる。だが、彼の思惑通りにはならなかった。
確かに魔術の発動は出来た、一瞬だが周囲の魔力を集めることも。
しかし、魔術の「継続」が出来ない。(これは、消滅魔術か…!)
消滅魔術とは魔法や魔術の発動を検知、
即ち魔力が体外に放出された段階で消滅させる魔術だ。これもまたユニコーンの時と同じ魔術師がやっているのだろうが、
こんな代物扱える人物など世界に数えるくらいしかいないユニーク魔術に近いほど珍しい。ここで始めて事の重大性に気づく。
(どんなに犠牲を払ってでも消したい奴がこの中にいる…!)
足に魔力を込めて垂直跳びをする。
純粋な筋力による跳躍と、魔力による跳躍の付加。その高さおよそ二十メートル。
跳躍しきってから念動魔術による空中浮遊が即座に消滅魔術によって落下を始めようとする。しかし落下を始めるよりも速く、
念動魔術を再度発動。再度、念動魔術の消滅。再度、念動魔術の発動。この消滅と発動の繰り返しを高速で繰り返すことで空中浮遊を維持する。
始めに魔力を集めようとした方法を思い出し、
空中の残存魔力の流れを感知、魔法陣の位置を逆探知する。(一、二、三、四……五個だな)
五か所から魔力を吸い上げており、
星形の頂点を位置する場所に魔法陣が張られているようだ。 観客はまだ彼女との戦闘の最中で彼がルール違反をしたと思っている。空中浮遊を解除し、大会運営に用意されている椅子が集まる上座目掛けて移動する。
この異常事態を伝えるために大会運営席に到着したが、一歩遅かった。
黒衣のフードに身を包んだ連中が、
恐らく毒が仕込んである武器を片手に運営陣を拘束している。それを見た彼は毒武器を魔力糸無しで操り、
毒武器の所有者に向けて刃先を強引に向かわせた。何とか抵抗しようと力を込めるフードを被った賊の抵抗空しく、
自害するように毒武器を自身の身体に突き刺す。即効性の毒だったのか、黒衣の集団が苦しむようにもがき、倒れ、息絶える。
「おかげで助かった」
「切られていないか?」
「ああ、大丈夫だ」
「そうか、ならここからでいい。
大会の中止を宣言してくれ。 誰が本当に狙われているかまではわからんが、まだ賊がどこかに潜んでいる」「わかった、すぐに放送を行うように放送席に手配する」
「その放送室とやらは、本当に安全なのか?」
「まさか、そこまで賊が侵入しているというのか…」
「可能性はある。この闘技場にはすでに魔法陣が五か所仕掛けられている。
効果はわかっているだけでも消滅魔術。 ユニコーンが出現したことも関わっていると考えたほうがいい」「消滅魔術!?でも君は今魔術を行使して…いや、そんな前から賊が準備を…」
思わず狼狽する大会主催者。それほどまでに消滅魔術は珍しいのだ。
「とりあえず今は避難が先決だ。放送室の他に方法はないのか」
大会主催者は俯きながら
「申し訳ない。私はどうしたら…」
「そうか、なら非難はこちらでやる、あんたらは先に避難してくれ」
「わかった。この件が片付いたら、何かお礼をさせてくれ」
「未来を語るにはまだ早い」
大会主催者に倒れた賊の毒武器を拾って襲い掛かる影が一つ。
その新たな賊は黒衣のフードを被るわけでもなく、大会運営者の一人だった。
難なく新たな賊を念動魔術の重ね掛けで停止させる。
「くそぉ!どうして体が動かない!魔術は封じたはずではなかったのか!」
「こんな風に、内部に賊が入り込んでいることも考えた方がいい」
「どうして、お前が…」
他に賊がはいりこんでいないか目に魔力を集中させ、
全員からにじみ出る自然魔力の揺らぎを確認する。(他に賊は…いないな)
「それで、こいつはどうする?」
「拘束してくれると助かる」
「拘束は無理だが気絶させることはできる。後はそっちで何とかしてくれ」
念動魔術で拘束していた賊の鼻と口周りの空気を固定する。
次の瞬間、呼吸ができなくなった賊は白目をむいて脱力状態になる。ぱっと見は勝手に白目をむいた賊に驚きつつも、
彼の魔術によるものだと納得する主催者一同。すると、いい加減痺れを切らしたのか、大きな声で彼女が悪態をつく。
「ちょっと、いつまでそこにいるのよ」
「じゃあ、あとはこっちで何とかする。あんたらは自身の安全だけを考えてくれ」
「しかし、それでは市民たちが…」
主催者が言い終わる前に、金髪の彼女の元へと降りる。
「貴方、魔術が使えるの?私はこの通信装置が使えないんだけど」
彼女が差し出したのは遠隔との通信が可能になる魔術道具。
仮にこれを換金すれば中央の一等宿泊施設に十日は遊びながら泊まれるだろう。「ああ、俺なら使えると考えてもらっていい。
それよりも今俺が持っている情報を伝える。一度で聞き取ってくれ」観客からは依然として悪態をつく人もいるが、
何かおかしいと感づく人もおり、一目散に会場を後にする危機回避能力が高い人もいる。はっきりいって、パニック一歩手前の状態だ。
「俺は一旦仕掛けられた魔法陣を確認してくる」
「待って」
その場を素早く後にしようとする彼に、
彼女は小さく、それでいてはっきりとした口調で告げる。「私はマリー、中央王族機構、第三王女。王位継承権二位、マリー・トレスティア」
「第三王女!?」
さすがに高貴な方だとは勘づいてはいたが、まさか王女だとは…
「ばか!声がでかい!!」
「すまん。あ、いや、申し訳ございません。」
「そこはいつも通りでいいわよ、ばか」
「で、話を戻すが、その第三王女様は、自分が狙われていると思ったわけだ」
無視。
(ん?なんか気に障ること言ったか?あっ、なるほど)
気づいて言い直す
「マリーは自分が狙われていると思うわけか」
「そうよ」
まだ第三王女様って言ったことを気にしているご様子。
「なら一緒に来るか?ここに一人でいるよりかは安全だろうし」
「いいの?」
「全身骨折しているマリーの先生よりかは役に立ってみせるよ」
「それは貴方のせいでしょ」
お互いに少し笑う。
緩みそうになった空気を引き締めたのは意外なものだった。「あー、これ聞こえている?ゴホン、
闘技場にお集まりの皆さーん!ワタクシ、コワーイ暗殺ギルドの長でございます! これから皆さんにはー? 闘技場からの鬼ごっこにご参加いただきたいと思いまーす!ルールは簡単。各所に魔物を召喚する儀式が施されている闘技場から、
生きて脱出する事。 晴れて脱出出来た方はー、はぁ、何処へなりとも行ってください。 ゲームは終了になってしまいます。しくしく。 まずは魔物一体から鬼ごっこ、開始いたします!」急な放送に戸惑う観客たちだが、まだ放送に半信半疑な様子。
開始の合図をしたはずの放送席の男のような声が、少し苛立った口調に変わる。
「あれ?あれあれ?ゲームはもうスタートしているんですけどねぇ。
これは頂けません…しょうがない、皆さんがそんな態度だからいけないんですよ? 魔物召喚、「全部」やっちゃいな」魔物の気配が一つから五つに増える。
一刻も早く全ての召喚陣を破壊しなければどんどん屍の山が増えていくだろう。
小さな街とはいえ、ほぼ全ての住民達がこの闘技場に足を運んでいると言っていい。 店を休業してまでこの催しに参加しているところも珍しくない。ここでほぼ同時に二人が駆け出す。
(やはり放送室はすでにダメだったか)
「マリー、これから召喚陣を破壊しにいく、
消滅魔術も同じ陣に組み込まれている筈だ」「陣の場所は?」
「大丈夫、全て分かっている。
一番近いところから破壊しにいくが、 奴の言う通り魔物が魔法陣の近くにまだうろついている。俺が魔法陣を破壊するまでの間、魔物の「注意」だけでいい、惹きつけられるか?」
「別に倒してしまってもいいんでしょうね?」
「できるならな」
お互いにフフっと笑うが、ここで彼が釘を刺す。
「だが一箇所だけ、ここから一番遠い場所だがユニコーンよりも強い魔力反応がある。
そいつはこの消滅魔術の状態だと俺も厳しい」「分かった、その魔物だけは貴方に任せるわ。
なら、先に魔物の魔法陣よりも先に消滅魔術の方を何とかした方が良いわね」彼が頷く。
「マリーの先生!近くにいるなら返事しろ!」
「あいあい、ここにいるぜ」
何処からかぬっと出てきた白髪の剣士が彼らと共に走る。
「この木剣をやる、無いよりマシだろ。
アンタは俺達と逆方向から魔物を叩いてくれ。 そっちならせいぜい二段階目か三段階目だろう。 その折れた両腕でも何とかできる筈だ」「簡単に言ってくれるねぇ、まぁ、何とかして見せるさ」
「頼んだ。最後の魔法陣の時に落ち合おう」
「それは良いけどよ、ボウズと嬢ちゃんは木剣だけで戦うつもりか?」
「流石に自分の剣が無いと惹きつけるにも限界があるわ」
「心配ない、そら来た」
こうなるだろうと、遠隔で預かり所からすでに念動魔術でこちらに移動させていた。
彼女の剣は一度見て覚えている。 剣自体に魔力が付与されていたからこういった事態ではわかりやすい。 逆に彼の剣の方が分かりづらい、というより分からなかった。片っ端から様々な剣を手当たり次第念動魔術で移動させてきた。
闘技大会も進み、預かり所には剣自体が少なかったが、 十本はまだあったので全て持ってくる。一斉に向かってくる剣を見ながら人二人は目を丸くしたが、すぐに理解する。
((先生と)(俺と)やった時はまだ本気ではなかった)
マリーは自身の愛刀を手にし、
白髪の剣士は比較的軽めのショートソードを一度は手にしたが、再び木剣に持ち替える。「よし、行こう」
「死ぬなよ、嬢ちゃん」
「そっちこそ」
笑い合い、お互い逆の方向へと走り出す。
走りながらも不安の種が消えない彼を見てマリーが心配そうに声をかける。「宿屋の親子のこと?」
「ああ、この闘技場に来ている筈だ」
気がかりなのは店主の親子だ。
この闘技場まで来ている筈だが、こうも人が多いと個人の特定は不可能。素早く魔物を排除し、魔法陣を破壊する事が結果的に命を救うことにつながる、筈だ。
マリーも心配しているようだが、さすがは王女様。思考の切り替えが早い。
「私も心配だからさっさと片付けて、
お祝い金たっぷりもらって、それで宿屋の皆んなにご馳走してあげましょう」「そうだな」
「本当に皆さん、王国のために尽力して下さり、ありがとうございました」最後の戦いから数日後、傷が癒えた頃に女王陛下から感謝の言葉が述べられた。王国の水問題はカノンの尽力により普及工事が進んでおり、こちらも飢える寸前で解決へ向かっているようだ。「ベンジー騎士団長亡き後、現在は空席のままですが、ハクロウ副団長を騎士団長に昇格し、そしてレルゲン、貴方を副団長に任命致します。よろしいですね?」二人が同時に答える。「「謹んで拝命致します」」ナイトの討伐と、王国を狙った数々の暗躍が終了した事を祝して祝勝会が開かれた。「しっかし、俺がボウズ直々の上官とはねぇ…功績を考えたら普通逆じゃねぇ?」「私専属の騎士ってだけで、今まで普通の騎士と同じ階級なんだから妥当でしょ」「いやぁ、俺片腕無くなっているしよ…」「それなんだがハクロウ、無くなった左腕について話があるから後で」「ん?ここじゃダメなのか?」「まあな」「まぁいいか、んじゃ嬢ちゃん達をあまり待たせるなよ」「ああ」短い挨拶だったが、一時は死にかけていたハクロウも晴れやかな表情をしている。貴族に挨拶をして回っているマリーを見つけ、半ば強引に話しかける。「マリー、ちょっといいか?」周りの貴族達に別れを告げて、マリーがレルゲンの前に来る。「どうしたの?」「俺と一曲、踊ってくれるか?」その直球な物言いにマリーは少し驚いた表情をしたが、すぐにレルゲンを見つめ返し、返答する。「喜んで」簡単な踊りではあったが、マリーは笑顔は眩しく、また幸せそうな顔をしている。そこはレルゲンとマリーだけの空間、もちろん他の貴族達も一緒に踊ってはいたが、周りも気を遣って少し距離を空けてくれている。(マリーと踊れて良かった)(私も、公の場で貴方と踊れたのは本当に嬉しいわ。セレス姉様の事もあるし…)(今は周りの目は気にせずに一緒に楽しもう)(そうね)二人だけにしか聞こえない、踊りの中での魔力糸での思念会話は、心の距離の近さを象徴していた。マリーとの踊りが終わってから、セレスティアの姿が見えない。気になったレルゲンは少し辺りを見回して彼女を探すが、どこにも姿は見当たらない。女王にも直接聞いてもみたが、分からないと返答された。思い当たる所は後一つ。セレスティアと初めて会った中庭。初めて念動魔術の物質分離が成功し、
得意気に笑うレルゲンを見て更に思考が乱れていく。ナイトは一度落ち着くために深呼吸をするが、この間にも魔力障壁が加速度的に速く、そして鋭くなっていくマリーが魔力障壁をどんどん破壊していく。加速しきったマリーは今や分身して見える程だ。こうなってしまってはレルゲンといえど加勢しようとすると逆に邪魔になる。「やあぁぁぁぁ!!!!」剣が加速する度にマリーの気合いも上がっていく。ナイトが保険のために用意した魔力障壁がもうじき全て破壊されるタイミングで全身から真紅の魔力が噴き上がり「いい気になるなよ!」口調が荒っぽくなり、衝撃派ではなく純粋な魔力衝突によりマリーが後方に吹き飛ばされる。壁に勢いよく激突し、少しの亀裂が入るがマリーの意識はまだ失われていなかった。ようやく回りを俊敏に動いていたマリーを止めることに成功し、ナイトに余裕が戻る。「なまじ強いと大変ですね、おや?それにしても今のをもろに浴びてその程度ですか。レルゲン君、ではありませんね」一拍おき、ピシッと額に血管が浮き出る。「貴女…今、念動魔術を使いましたね?」痛みを堪えながらも笑って見せるマリー。「死になさい」最後の一撃を入れようとするナイトにセレスティアがどの上位魔術にも属さない、しかし威力は上位魔術にも引けを取らない詠唱破棄の独自の魔術を発動させる。「させません、マルチ・フロストジャベリン」無数の氷でできた槍を空中からナイトに向けて放つ。「そんなところにいたのですか。貴女までも…と思いましたが、これはどうやらレルゲン君ですね」静かにレルゲンがセレスティアを地上に下ろし、マリーの治療のためにセレスティアが駆け出す。「回復なんてさせませんよ」念動魔術で強引に止めるが、それでも何とか前に進もうとするセレスティア。しかし身体を完全に固定されて進めない。「ここからでは射程が遠くて回復魔術を使っても意味がありませんよ。大人しくそこで横たわる第三王女を見ていなさい」ナイトがセレスティアからレルゲンに向き直る。「ではレルゲン君、ついに一騎打ちです。私の懐に入れれば君の勝ち、こられなければ私の勝ちです」「それはどうかな、まだ気が早いんじゃないか?」「何を言っているのです?もう彼女達の加勢は不可能でしょう」セレスティアからマリーへ伸びる、一本の魔力糸。否、逆だ。“マリーが伸ばした”魔
「素晴らしい!皆さん本当に素晴らしい!誰も欠けることなく私の最高傑作を打ち倒すとは。特にユゥに入れた最後の一撃!私は感動しましたよご老人!流石は年の功ですね。ですので」パチンと指を鳴らし、レルゲンが帯同させていた鉄剣が螺旋状となり一瞬で高速回転する。「は?」何も命令を出していないはずのレルゲンの鉄剣が螺旋を描き、ハクロウの左肩に命中。勢い収まることなくその後ろにある壁をも貫き、見えなくなる。「くそ…しくったか…」ハクロウの左腕が肩口から螺旋剣に抉り飛ばされ、酷く出血する。「なんで…くそ、ハクロウ!」「こっちを見てんじゃねぇレルゲン!俺なら大丈夫だからよ…そっちはあいつに集中しろい」即座に帯同している残り四本の鉄剣を外へ飛ばす。残る武装は黒龍の剣と白銀の細剣のみ。肩で大きく息をするハクロウ。出血量はセレスティアが負わされた時以上、間違いなく致命傷だ。慣れた魔力糸捌きでハクロウの応急処置をし、止血する。注意はナイトに向けたまま、感覚のみで手術を行う。出血量が少なくなったところですかさずハクロウが回復薬を飲み、完全に止血が完了する。肩で息をしていたハクロウの呼吸が落ち着き、安堵する。その様子を見たナイトが一言。「手術の速度と精度も上がっていますね。実に素晴らしい成長だ」それを聞いたレルゲンは魔力を全て解放し、もはや黒と形容してもいい程の赤い色の魔力が全身から迸る。我を忘れ、今にもナイトへ突っ込んでいきそうなレルゲンを止めたのは、マリーとセレスティアだった。ただそっと二人が両手を握り、優しく魔力をレルゲンに流す。全身から迸る赤い魔力がフッと消え、我に返る。「ありがとう、二人共」マリーとセレスが頷き、構えを取る。セレスが高速詠唱でバフを二人にかけている最中、時間を潰すかのようにナイトが語り始める。「シュットくんの魔力はどんどん濃さが増していますね。色を見れば明らかですが、魔力総量だけ見れば既に私を超えているでしょう」「レルゲンだけしか見えてないって言いたいのかしら?」マリーが挑発するようにナイトを煽る。「いえいえ、そんなことはありませんよ?マリー・トレスティア。貴女方には正直期待していませんでしたが、シュット君を献身的に支える姿には涙が出るほどです」煽ったつもりが煽られたマリーは顔をしかめるが、ナイトの余裕を崩すには
(やはり魔力糸なしの念動魔術で操作していたか)「どういうこと?」マリーがレルゲンに説明を求める。「簡単にいうと、こいつらを動かしているのはナイトの念動魔術だ。だから最初から見やすい位置に陣取って“操作していた”んだ。ナイトが操っているから念動魔術も使える」レルゲン以外の三人が驚きの声を上げる。今までのこの攻防を全て一人で演出していた。それこそまさに旅の行商人が連れ歩く人形使いのようではないか。ここまで並列に思考を分けて、狙いを絞り、作戦を共有させる。念動魔術の極地とも言える技の結集にレルゲンは素直に驚きと共に、上の世界を見た。「仕組みを理解したところで、今のレルゲン君には操作権は奪えませんよ」「そうかもな」最初はマリーとアイとの相性が悪いことから前衛を変える選択をしたが、アイの影移動とユゥの回復、どちらを先に叩くか──間違いなくアイの影移動の方が厄介だ。となればレルゲンが自らアイと一対一の戦いをしても良いが、それだと次のナイトと戦う事を考えると魔力が枯渇しかねない。寧ろ次を考えるなら、レルゲンが回復魔術を使うユゥを発動させないように釘付けにし、マリーとハクロウ、セレスティアにアイを討ち取ってもらった方がいい。アイとユゥ、どちらかが欠ければ後は消化試合のはずだ。「俺がヒーラーを抑える。みんなは影移動の方を叩いてくれ」「任せて」「あいよ」短いやり取りだが、即座にマリーとハクロウがアイに切りかかっていく。マリーが連続剣の加護を発動させて、ハクロウがそれのサポート。三人で戦っていた時はこんな戦法を取ることが多いのかなと考えたが、目の前のユゥに集中して回復の隙を与えないように立ち回る。マリーが連続剣の加護が発動してから速度が上昇し切るまではハクロウと一緒に前衛をこなすが、加護の速度が乗り切った後はマリーのみで前衛を任されるのが一つの勝ちパターンだ。次第に速度が上がっていくが、ここでアイが速度鈍化のデバフスキル「ダウン・ザ・ピッチ」をかける。またガクンと一瞬速度が落ちるが、セレスティアがそれを即座にカバーする。「ライト・スピード」下がった分即座に速度バフがかかり、マリーの口角も上がる。更に上がある、もっと先へ行ける。そう感じてからの攻撃速度はマリーを能力以上の速さへと進化させる。堪らずアイが影移動で離脱しようとするが、これをセ
建物の入り口を潜ると自動で閉まっていく。一度入れば最後、どちらかが全滅するまでこの扉は決して開かないだろう。もう緊張も迷いもない。皆がただ勝利を信じてここへ立つ。中へ入ると軍服を着た少女が二人。奥にはナイトも見える。軍服の少女達とナイトを一度に相手取るように見えたがナイトが下がり、玉座とも取れる椅子に腰掛ける。「アンタは高みの見物か」レルゲンがナイトを煽ると、ナイトがにやっと口角を上げて答える。「その娘達は私の“最高傑作”です。私をここまで待たせたのですから、じっくり味わいたいではありませんか。それと油断していると幾らシュット君でも、死にますよ?」「俺の「挨拶」に耐えたんだ。そんなつもりはないさ」帯同させる剣の中には、ドライドが丹精込めて鍛え上げた剣もある。刀身は白銀で細く、細剣に近い形状を取る。鍔部分はアシュラ・ハガマの増幅鉱石があしらわれており、他にも王国から直接貸与された名剣とも呼べる切れ味を誇る鉄剣が五本。黒龍の剣も入れれば計七本の剣を扱うこととなる。マリーとセレスティアの装備は変わらず、ハクロウのみ魔物討伐の時から日本刀のような形状の刀を二本、始めから抜刀している。レルゲン達に対する軍服の二人組は、片方が短剣を両手に一本ずつ持ち、もう片方は片手直剣を持っている。レルゲンの挨拶の時は両者共何も持っていなかったが、最初から武器を手にしている事から、挨拶時は始めから「どちらも本気ではなかった」のだ。レルゲンの額から汗が流れ、地面へと落ちる。「いくぞ!!」両陣営共駆け出す。前衛はマリーとハクロウ、レルゲンは遊撃として一歩下がり、セレスティアは小声で攻撃魔術の詠唱を始める。最初は様子見とばかりにお互い魔術の追加攻撃はせずに前衛同士の鍔迫り合いが繰り広げられる。レルゲンも鉄剣を一本ずつ相手の横腹に射出するが、あっさりと短剣使いは弾き、片手直剣の方は素手で弾く。射出速度と剣の切れ味から考えても無傷で防げるとは考えづらい一撃だが、ここでレルゲンが挨拶をした時に放った赤い光線を両者とも素手で受け止めていたことと重なる。(やはり身体の構造的に何かあるな)ちらっとナイトの方を見るが依然として動かず、表情も変えず、戦いを楽しむように観戦している。レルゲン剣を弾いた直後に両者とも鍔迫り合いを止め、剣戟が室内に響く。マリーとハクロ
五段階目の討伐で自信をつけたマリー達は少しの休憩の後、五段階目一体、六段階目も一体討伐して帰還して来たのだった。六段階目は魔力量と大きさ、一撃の破壊力は大きいがセレスティアは標的にならない程前衛二人の働き凄まじくアシュラ・ハガマに似た形状の魔物を討ち取ったのだった。王国に帰還してからというもの、レルゲンにこの事を報告に行った三人は気力、魔力が尽きかける限界近くまで消耗はしていたがそれでもやり遂げたのを見て、レルゲンはただ一言「お疲れ様」と労った。それから発注した武器が完成するまでは、レルゲンは三人の連携を崩さないように立ち回り援護に徹することが多く、念動魔術による牽制くらいしか必要としない力量まで実力が底上げされていた。この成長ぶりにはマリー達自身も驚いており、レルゲンも背中を預けられると安心していた。武器が出来たとドライドから連絡が入り、早速届いた剣を試し斬りするべく、鍛冶屋の裏に周る。「この前の黒龍の剣とは違って、どっちかっていうとマリー嬢ちゃんの魔剣に近いな。要望通り作りはしたが、どんな目的があってそんな仕様にしたんだ?」掻い摘んでドライドに話す。「それをしたところでなぜそうなるんだ?」と返って来たので、説明が難しいと言って逃げる。試し斬りだけして切れ味を確かめ、要望通りの品質を確認してドライドに感謝を伝えた後に持ち帰るのだった。実は新しい武器はレルゲンが幼少期に体験したある出来事が元になっている。まだ魔法すら使ったことのない年齢のレルゲンが、火炎魔法を発現させたと大騒ぎになった事があった。結果的には魔法の痕跡は無く、原因が分からないまま終わったが、それを見た両親がナイトを家庭教師としてつけて魔術を教えることとなるのだが、レルゲンは今でも鮮明に覚えている。“この世は魔で満ちている”魔術適正が無くても、魔法くらいなら誰でも出来るのだという確信がレルゲンを形作った。その手段を魔術で応用することによって、真の魔術として昇華させる。まさに十八番ともいえるレルゲン独自の技の基礎だ。準備は整った。敵の本陣とも言える座標に徒歩で向かう。相変わらず魔力揮発剤が常時巻かれており、魔物が寄り付かない道がこの深い森の中に出来ている。森を抜け、木々が不自然に生えていない場所に出ると陽の光が入り込み、暖かな日差しが差し込んでくる。芝の上
大会もいよいよ最終戦木剣のみの打ち合いになる相手はどんなお貴族様かと思っていたら「なるほど、相手は君か」「ええ、まず試合が始まる前に謝罪をさせて頂戴。私が有利になるルールに何度も変えさせて」「いいさ、結果は変わらないからな」「ふふっ、貴方そんな冗談も言えるのね」その冗談とは、これほどまでの縛りルールでも勝てると思っているのか。またはそんな減らず口を言えるタイプだったのかと思っているのかは分からないが、お互いに決勝まで駒を進めてきたもの同士。気分が高揚していた。「特別試合、始めてください!」最初に動いたのは彼女の方だった。木剣の種類は彼女の背丈には不釣り合いな長さで、
第一試合から順調に試合は進んでいき、彼は順調に駒を進め、決勝まで来たのだが相手は先日のユニコーン騒ぎでひと悶着あった白髪の剣士だ。「これよりBグループの決勝戦を開始します!えー、一番と八番の決勝戦ですが、なんとお互いに真剣を使っての試合を望んでいるようです!」決勝戦ともあればある程度のわがままは通るはず。どうやらお互いに考えていることは同じようだった。「ただいま入った情報ですが、事前にお互いが大会運営に直談判し、運営はこれを許可したそうです!さぁ盛り上がってまいりました!」観客から歓声が上がる。「では改めまして、Bグループ決勝戦!始めてください!」お互いに目線を合わせ
大会当日大会のルールは魔法、魔術あり、真剣あり。寸止めは必要なく戦闘続行不可能と審判が判断すれば試合終了。実質初撃で致命的な一撃を負わせることができれば殺しもありの、ほぼルール無用の地下闘技場にありがちな過激な大会規定だったはずだ。だが、急遽真剣は木剣となり、魔法、魔術も呪い系や再起不能になるレベルの攻撃魔法、魔術は禁止の実質学生の大会でもやるのかというレベルのルールでの開催となった。ここで魔法と魔術の違いについて簡単に説明しよう。魔法とは、単純な命令や魔力変換の末に行使が可能なもので、魔術とは、例えば魔法を複数組み込み複雑な術式を構築することを指すが、この魔法と魔術と
衛兵の隊長と思わしき男性が、集まった皆に号令をかける。「これから魔物調査に向かう!対象の魔物は数も種類も不明だが、岩山を消し飛ばしたという報告が入っていることから二段階目までの強さは覚悟しておくように!またここからそう遠くない場所になる。最初から気を引き締めるように!」街の大門がゼンマイ仕掛けでガチャガチャと音を立てながら開いてゆく。いざ行進を開始するというタイミングで背後から声がかけられた。「貴方も調査に参加するのね」「明日に差し支えると困るからね。そういう君は?」「大体は貴方と同じ。店主さんにも頼まれたし」二人の会話を遮るように号令がかかる。「調査開始!」気合をつけ







