Masuk後一歩のところで上空に感じた覚えのある魔法陣が闘技場全体を覆う。
お互いに戦闘を瞬時に中断し、
何が起きているのか情報を集めようと周囲を見渡す。(これはユニコーンの時と種類は違うが、同じ奴が起動しているな。
となると魔法が飛び交っていた闘技場の魔力を使ってまた魔物を召喚するつもりか? だがそれならもう対策はある)彼が右手を空に掲げ、自身の知覚できる感覚を広げる。
仮想的に可視化させた周囲の環境を取り巻く魔力を一点に集めるべく、
魔力糸無しで念動魔法を発動させる。だが、彼の思惑通りにはならなかった。
確かに魔術の発動は出来た、一瞬だが周囲の魔力を集めることも。
しかし、魔術の「継続」が出来ない。(これは、消滅魔術か…!)
消滅魔術とは魔法や魔術の発動を検知、
即ち魔力が体外に放出された段階で消滅させる魔術だ。これもまたユニコーンの時と同じ魔術師がやっているのだろうが、
こんな代物扱える人物など世界に数えるくらいしかいないユニーク魔術に近いほど珍しい。ここで始めて事の重大性に気づく。
(どんなに犠牲を払ってでも消したい奴がこの中にいる…!)
足に魔力を込めて垂直跳びをする。
純粋な筋力による跳躍と、魔力による跳躍の付加。その高さおよそ二十メートル。
跳躍しきってから念動魔術による空中浮遊が即座に消滅魔術によって落下を始めようとする。しかし落下を始めるよりも速く、
念動魔術を再度発動。再度、念動魔術の消滅。再度、念動魔術の発動。この消滅と発動の繰り返しを高速で繰り返すことで空中浮遊を維持する。
始めに魔力を集めようとした方法を思い出し、
空中の残存魔力の流れを感知、魔法陣の位置を逆探知する。(一、二、三、四……五個だな)
五か所から魔力を吸い上げており、
星形の頂点を位置する場所に魔法陣が張られているようだ。 観客はまだ彼女との戦闘の最中で彼がルール違反をしたと思っている。空中浮遊を解除し、大会運営に用意されている椅子が集まる上座目掛けて移動する。
この異常事態を伝えるために大会運営席に到着したが、一歩遅かった。
黒衣のフードに身を包んだ連中が、
恐らく毒が仕込んである武器を片手に運営陣を拘束している。それを見た彼は毒武器を魔力糸無しで操り、
毒武器の所有者に向けて刃先を強引に向かわせた。何とか抵抗しようと力を込めるフードを被った賊の抵抗空しく、
自害するように毒武器を自身の身体に突き刺す。即効性の毒だったのか、黒衣の集団が苦しむようにもがき、倒れ、息絶える。
「おかげで助かった」
「切られていないか?」
「ああ、大丈夫だ」
「そうか、ならここからでいい。
大会の中止を宣言してくれ。 誰が本当に狙われているかまではわからんが、まだ賊がどこかに潜んでいる」「わかった、すぐに放送を行うように放送席に手配する」
「その放送室とやらは、本当に安全なのか?」
「まさか、そこまで賊が侵入しているというのか…」
「可能性はある。この闘技場にはすでに魔法陣が五か所仕掛けられている。
効果はわかっているだけでも消滅魔術。 ユニコーンが出現したことも関わっていると考えたほうがいい」「消滅魔術!?でも君は今魔術を行使して…いや、そんな前から賊が準備を…」
思わず狼狽する大会主催者。それほどまでに消滅魔術は珍しいのだ。
「とりあえず今は避難が先決だ。放送室の他に方法はないのか」
大会主催者は俯きながら
「申し訳ない。私はどうしたら…」
「そうか、なら非難はこちらでやる、あんたらは先に避難してくれ」
「わかった。この件が片付いたら、何かお礼をさせてくれ」
「未来を語るにはまだ早い」
大会主催者に倒れた賊の毒武器を拾って襲い掛かる影が一つ。
その新たな賊は黒衣のフードを被るわけでもなく、大会運営者の一人だった。
難なく新たな賊を念動魔術の重ね掛けで停止させる。
「くそぉ!どうして体が動かない!魔術は封じたはずではなかったのか!」
「こんな風に、内部に賊が入り込んでいることも考えた方がいい」
「どうして、お前が…」
他に賊がはいりこんでいないか目に魔力を集中させ、
全員からにじみ出る自然魔力の揺らぎを確認する。(他に賊は…いないな)
「それで、こいつはどうする?」
「拘束してくれると助かる」
「拘束は無理だが気絶させることはできる。後はそっちで何とかしてくれ」
念動魔術で拘束していた賊の鼻と口周りの空気を固定する。
次の瞬間、呼吸ができなくなった賊は白目をむいて脱力状態になる。ぱっと見は勝手に白目をむいた賊に驚きつつも、
彼の魔術によるものだと納得する主催者一同。すると、いい加減痺れを切らしたのか、大きな声で彼女が悪態をつく。
「ちょっと、いつまでそこにいるのよ」
「じゃあ、あとはこっちで何とかする。あんたらは自身の安全だけを考えてくれ」
「しかし、それでは市民たちが…」
主催者が言い終わる前に、金髪の彼女の元へと降りる。
「貴方、魔術が使えるの?私はこの通信装置が使えないんだけど」
彼女が差し出したのは遠隔との通信が可能になる魔術道具。
仮にこれを換金すれば中央の一等宿泊施設に十日は遊びながら泊まれるだろう。「ああ、俺なら使えると考えてもらっていい。
それよりも今俺が持っている情報を伝える。一度で聞き取ってくれ」観客からは依然として悪態をつく人もいるが、
何かおかしいと感づく人もおり、一目散に会場を後にする危機回避能力が高い人もいる。はっきりいって、パニック一歩手前の状態だ。
「俺は一旦仕掛けられた魔法陣を確認してくる」
「待って」
その場を素早く後にしようとする彼に、
彼女は小さく、それでいてはっきりとした口調で告げる。「私はマリー、中央王族機構、第三王女。王位継承権二位、マリー・トレスティア」
「第三王女!?」
さすがに高貴な方だとは勘づいてはいたが、まさか王女だとは…
「ばか!声がでかい!!」
「すまん。あ、いや、申し訳ございません。」
「そこはいつも通りでいいわよ、ばか」
「で、話を戻すが、その第三王女様は、自分が狙われていると思ったわけだ」
無視。
(ん?なんか気に障ること言ったか?あっ、なるほど)
気づいて言い直す
「マリーは自分が狙われていると思うわけか」
「そうよ」
まだ第三王女様って言ったことを気にしているご様子。
「なら一緒に来るか?ここに一人でいるよりかは安全だろうし」
「いいの?」
「全身骨折しているマリーの先生よりかは役に立ってみせるよ」
「それは貴方のせいでしょ」
お互いに少し笑う。
緩みそうになった空気を引き締めたのは意外なものだった。「あー、これ聞こえている?ゴホン、
闘技場にお集まりの皆さーん!ワタクシ、コワーイ暗殺ギルドの長でございます! これから皆さんにはー? 闘技場からの鬼ごっこにご参加いただきたいと思いまーす!ルールは簡単。各所に魔物を召喚する儀式が施されている闘技場から、
生きて脱出する事。 晴れて脱出出来た方はー、はぁ、何処へなりとも行ってください。 ゲームは終了になってしまいます。しくしく。 まずは魔物一体から鬼ごっこ、開始いたします!」急な放送に戸惑う観客たちだが、まだ放送に半信半疑な様子。
開始の合図をしたはずの放送席の男のような声が、少し苛立った口調に変わる。
「あれ?あれあれ?ゲームはもうスタートしているんですけどねぇ。
これは頂けません…しょうがない、皆さんがそんな態度だからいけないんですよ? 魔物召喚、「全部」やっちゃいな」魔物の気配が一つから五つに増える。
一刻も早く全ての召喚陣を破壊しなければどんどん屍の山が増えていくだろう。
小さな街とはいえ、ほぼ全ての住民達がこの闘技場に足を運んでいると言っていい。 店を休業してまでこの催しに参加しているところも珍しくない。ここでほぼ同時に二人が駆け出す。
(やはり放送室はすでにダメだったか)
「マリー、これから召喚陣を破壊しにいく、
消滅魔術も同じ陣に組み込まれている筈だ」「陣の場所は?」
「大丈夫、全て分かっている。
一番近いところから破壊しにいくが、 奴の言う通り魔物が魔法陣の近くにまだうろついている。俺が魔法陣を破壊するまでの間、魔物の「注意」だけでいい、惹きつけられるか?」
「別に倒してしまってもいいんでしょうね?」
「できるならな」
お互いにフフっと笑うが、ここで彼が釘を刺す。
「だが一箇所だけ、ここから一番遠い場所だがユニコーンよりも強い魔力反応がある。
そいつはこの消滅魔術の状態だと俺も厳しい」「分かった、その魔物だけは貴方に任せるわ。
なら、先に魔物の魔法陣よりも先に消滅魔術の方を何とかした方が良いわね」彼が頷く。
「マリーの先生!近くにいるなら返事しろ!」
「あいあい、ここにいるぜ」
何処からかぬっと出てきた白髪の剣士が彼らと共に走る。
「この木剣をやる、無いよりマシだろ。
アンタは俺達と逆方向から魔物を叩いてくれ。 そっちならせいぜい二段階目か三段階目だろう。 その折れた両腕でも何とかできる筈だ」「簡単に言ってくれるねぇ、まぁ、何とかして見せるさ」
「頼んだ。最後の魔法陣の時に落ち合おう」
「それは良いけどよ、ボウズと嬢ちゃんは木剣だけで戦うつもりか?」
「流石に自分の剣が無いと惹きつけるにも限界があるわ」
「心配ない、そら来た」
こうなるだろうと、遠隔で預かり所からすでに念動魔術でこちらに移動させていた。
彼女の剣は一度見て覚えている。 剣自体に魔力が付与されていたからこういった事態ではわかりやすい。 逆に彼の剣の方が分かりづらい、というより分からなかった。片っ端から様々な剣を手当たり次第念動魔術で移動させてきた。
闘技大会も進み、預かり所には剣自体が少なかったが、 十本はまだあったので全て持ってくる。一斉に向かってくる剣を見ながら人二人は目を丸くしたが、すぐに理解する。
((先生と)(俺と)やった時はまだ本気ではなかった)
マリーは自身の愛刀を手にし、
白髪の剣士は比較的軽めのショートソードを一度は手にしたが、再び木剣に持ち替える。「よし、行こう」
「死ぬなよ、嬢ちゃん」
「そっちこそ」
笑い合い、お互い逆の方向へと走り出す。
走りながらも不安の種が消えない彼を見てマリーが心配そうに声をかける。「宿屋の親子のこと?」
「ああ、この闘技場に来ている筈だ」
気がかりなのは店主の親子だ。
この闘技場まで来ている筈だが、こうも人が多いと個人の特定は不可能。素早く魔物を排除し、魔法陣を破壊する事が結果的に命を救うことにつながる、筈だ。
マリーも心配しているようだが、さすがは王女様。思考の切り替えが早い。
「私も心配だからさっさと片付けて、
お祝い金たっぷりもらって、それで宿屋の皆んなにご馳走してあげましょう」「そうだな」
ここでセレスティアの主要貴族の一人であるドットハム卿が発言を求める。「恐れながら申し上げます。王国民の体調は悪くなる一方、ここは大規模調査団を川の上流に派遣し、原因を一刻も早く除去するべきです」だが、ここで違を唱えたのはそのセレスティア本人だった。「お待ちになって下さい。ドットハム卿。このセレスティア、貴殿のお気持ちは痛いほど理解できます。しかしながら今、国が弱っている中で騎士団の大部分がここを空けてしまった場合、王国民は誰が護るのでしょうか?」「しかしそれではどうしろと…」セレスティアが女王であるダクストベリクに向きを変え、力強く意見する。「女王陛下、ここは少数精鋭で原因を除去し、王国の守護は騎士団に任せるべきだと進言致します」女王が目を閉じて考える。数秒の間、謁見の間が静まり返り、再び女王が口を開く。「セレスティア、貴女が現地に行くと言うのですね?」「はい、ここにいる騎士レルゲンと共に」ざわざわと貴族が話し込み始める。「静粛に。貴女は王位継承権第一位です。このまま行けば貴女が次期女王となるでしょう。危険を犯してまで出向く必要は本当にありますか?」ここで普段優しく、そしてよく笑う表情が多いセレスティアの表情が引き締まり、女王を強い意思の瞳で見つめる「王国民なくして国は成り立ちません。空っぽの玉座に座れたとて、本当に王国と呼べるでしょうか?私はそうは思いません。今こそ位の高い者が自らの手で救いの手を差し伸べなくてはならないのだと、私は強く思うのです」「……分かりました。貴女のその強い意思に王国民の明日を託しましょう」女王が一度窓の外をどこか遠い眼差しで見つめてから、今度はレルゲンを見る。「騎士レルゲン、貴方にもこの疫病とも呼ぶべき負の連鎖を断ち切ることを命じます。よろしいですね?」「お言葉ですが女王陛下、私はここにおりますマリー王女殿下の専属騎士にございます。このように皆様からの厚いご支援賜り今日まで努めさせて頂いておりますがマリー様のご意思無くして、マリー様のお側を離れることは出来ません。ご容赦を」「マリー、貴女はどう思われますか?」「私の側を離れての極秘任務、騎士レルゲンにお命じ下さい。私はもう、護られるだけの姫ではございません。一刻も早くこの自体を解決できるのはこのレルゲ
こんな具合で王立図書館での本選びに飽きた時に、カノンの研究所に足を運び、研究を手伝っていた。カノン自体の魔力量や適正はいいとこC止まりで、潤沢に研究に使う魔力が無いのでレルゲンの魔力タンクには助かっているそうだ。(これは、俺が切り取った魔族の魔石か?)「おや、気づいたかい?調べてみるとその魔族から奪った魔石は君が前に倒した五段階目のアシュラ・ハガマの尻尾についている鉱石と構造が似ていてね。実際に魔力を込めたら光り輝く事から、少量の魔力で結構な魔力運用が見込めるのがわかったよ。あっ、そこまででストップね」魔力を込めるのを止めて、カノンに返す。ペンを雑紙に走らせながら結果を記入していく。前に見せてもらった事はあるが、セレスティアの講義よりもサッパリな内容だった。いつもはもう少しスッキリした作業机だが、今日は何やら書類が山積みだ。「今日は忙しそうだな」「あー、この山積み書類のことかい?良ければ内容確認を手伝っておくれよ。大体が体調不良を訴える国民の意見書だよ」「いいけど、意見書がどうしてここに来るんだ?」「なんでも、体調不良になっている原因を探って欲しいんだと。私は何でも屋じゃ無いんだぞー」椅子にもたれかかって不満を口にするカノン。試しに何枚か読んでみると、腹痛・嘔吐・下痢・果ては関節の痛みまで多岐に渡る。確かにこれは街の医者に頼んだ方がいい案件な気がするが……と思っていた時に一つ気になる症状があった。これは症状と言っていいのか分からないが、魔力量が急激に伸びて、性格が少し荒っぽくなった子供がいるとのこと。これは医者ではなく研究所で調べる必要があるのかもしれない。そう感じたレルゲンがカノンに件の書類を渡す。「これはうちの案件かもねぇ」なんともやる気の出ないカノンの声は本当に面倒くさそうだ。「まぁ、俺もやれる事はやるから」「頼り切って悪いねぇ、ほんと助かっているよ。うちの研究員にこの症状が出ている親御さんへ話を聞きに行かせるから、結果次第で助手君にも作業を割り振るよ」カノンから再びお呼びがかかって研究室に行くと、更に机のみならず通路にまで書類の山が積み重なっている。カノンの目には一時期改善したと思っていたクマが色濃く浮き出ている。「カノン、また寝てないのか?」「やぁ、レルゲン助手…よく
笑っているとセレスティアが歩いてくる。その表情はどこか羨ましそうだ。「楽しそうですね。何かありましたか?」「ああ、セレス様、マリーは俺のところでは卒業です。後は自主的な修行に変えようかと」「随分と早いですね。そういえば、マリーがレルゲンと発注しに行った首飾り、完成したようなので届いていましたよ。そして……」と続けたセレスティアは、今日の講義は課外授業にしたようだ。レルゲンが心の中で握り拳を作る。修練場に案内されたレルゲンとマリーは口を大きく開けて驚いていた。本来なら木製の床が敷き詰められ、雨除けの屋根がある程度の簡素な場所だったが今日は違う。自分の背丈の五倍はあろう巨大な水晶玉に、測定する人の魔術系統がわかる特殊な白い紙が用意されている。魔術系統は全部で七つに分類される。火、水、風、雷、光、影、無無属性魔術は言ってしまえばレルゲンがよく使っている念動魔術が含まれ、六種類で分類出来ない系統の総称とされる。驚かせたことに満足したのか、微笑みながらセレスティアが続ける。「今日はここで、最大魔力量と魔術適正、魔術系統を再確認します。まず始めは最大魔力量と魔術適正になります。この水晶に手を当て魔力を注いで下さい。こんな感じで」セレスティアが意識を集中し、全身から魔力が溢れ出る。ゆらゆらと陽炎の様に周囲の空間が歪んで見えるほど、魔力濃度が高いことが分かる。セレスティアの結果は最大魔力量A、魔術適正S。魔術師としての素質はほぼ頂点と言っていいだろう。続いてマリーは最大魔力量B、魔術適正A。修行前の最大魔力量はCだったというから、大きな進歩だ。これにはセレスティアも驚いており、レルゲンに方法を教えて貰おうと必死になったのはまた別のお話。続いてレルゲンが水晶に手を触れ、アシュラ・ハガマと戦った時の事を思い出す。あの時の全魔力解放は……こうだ。ドスンと空気が一気に重くなり、水晶の管理でついてきていたギルドの女性が重さに耐えかねて座り込む。レルゲンの全身から真っ赤な魔力が、アシュラ・ハガマの時よりも濃い赤色となって溢れ出る。マリーは一度側でレルゲンの魔力解放を身に受けているためそこまでの驚きは無かったが、セレスティアはというと額から冷や汗がこぼれ落ちるほどの圧力を感じ取っていた。ピシッと水晶にヒビが入っ
次の日、早速マリーの強化訓練が開始される。いきなり実演に入る前にざっくり訓練の内容を説明する。マリーの持っている剣は王国の宝剣と呼ばれる代物の一つで、魔剣に分類されている。この魔剣の効力は簡単に言うと使い手の速度上昇と魔力強化だ。一見地味な効果だと思いがちだが、マリーの場合は別だ。マリーには「連続剣の加護」がある。連続剣の加護と速度上昇の効果は相性がいい。加えてマリーの膂力の高さも相まって、連続剣の加護が発動し続けると、理論上はどんな攻撃よりも速く、そして強く繰り出せるようになる。「マリーは連続剣の加護を持っているよな」「ええ」「でも試合で戦っていた時は発動が切れた。なぜだと思う?」「あの時は正直に言うと押し返された時に負けを覚悟したわ」「そうだな、マリーの心が先に折れていた。俺も正直に言うが、あの戦いは実際賭けだった。あのままマリーの加護が発動し続けたら俺は負けていたかもしれない」「そうなの?」レルゲンが力強く頷く。加えて更に伸び代がある事を伝える。「それにマリー、あの時は剣に魔力を大して付与していなかっただろう?」「そうね、剣術だけに頼っていたわ」「その魔剣は魔力強化もされると聞いた。折角魔術適正がAなんだ。もっと剣に魔力を込めて戦えるんじゃないのか?」「無理よ」ん?と首を傾げるレルゲン。ここで躓くとは思っていなかったようだ。「私、魔術適正は高いけど、魔力量はそこまで多くないのよ。だからあの時だって、剣に魔力自体は流していたわ」「なるほどな」ここまで聞ければ十分と言いたげに、レルゲンがマリーの強化方法を告げる。「よし、マリーの修行は魔力の効率的な運用じゃなくて、魔力の絶対量の上昇だな」「簡単に言うけど、どうやるの?」「簡単さ、マリーには何回もマインドダウン状態になってもらう」マリーの顔が青ざめる。マインドダウンは本来避けるべき症状だが、恩恵もある。それはマインドダウン状態になって体内の残存魔力がゼロになった時に発生する“器の破壊”だ。身体が怪我をした時により強い組織へと修復するのと同じで、一度魔力がゼロになると、より多くの魔力を蓄えられるようになる。幸いこの土地には地脈も通っている。器の修復自体は直ぐにできるだろう。後はマリーがマインドダウンの症状に耐えられるか次第だ。「ど
緩み切った空気になることを待っていたのだろう。草陰から音もなく暗器が投げ込まれる。こんな人混み中で強行してくるとは、流石のレルゲンも一瞬出遅れる。投擲物が来たとわかってから、自分とマリーに念動魔術をかける。“矢避けの念動魔術”自身に害があると認識した投擲物の軌道を自動的に曲げる事ができる魔術で、レルゲンが旧王朝出身でありながら今まで生きてこられたのも、この魔術を早期に会得したことが大きいと言える。最初に使ったのは暗殺ギルドの長との戦いで、同じく投擲物の軌道を曲げるために使い、それを加護によるものだと誤認させた。マリーがもっている“連続剣の加護”も同様に、加護には弱点が存在する。連続剣の加護は自身の闘志が無くなると効果が消える。“矢避けの加護”の弱点は攻撃されたと認識しなければ発動しない。付与される加護の希少性では矢避けの加護は下位に位置し、その弱点もある程度知られている。つまり、レルゲンの緊張が緩み切った瞬間を狙って、マリーから中々離れないレルゲン共々暗殺しに来たというわけだ。矢避けの念動魔術によって暗器が逸れたと同時に集中を深くし、周囲の魔力反応を探る。人型・強い魔力。人間とは自然魔力の流れ、大きさが異なっていた。(この感覚、忘れもしない。魔族だな)魔族は最低でも三段階目、多くが四・五段階目に分類される種族だ。(いよいよマリーを狙う敵側もなりふり構っていられなくなってきたか)通常、魔物は消滅時に魔石を生成するが、魔族は別で最初から魔石を体内に有している。身体の一部となる事で魔力の運用効率が爆発的に向上し、高い戦闘能力を有している事が多い。ここまで入念に準備して、かつこちらはマリーも帯剣していない。今自分が持っているのはお守りで持ってきた鉄の剣と黒龍の剣。黒龍の剣なら相手することはできるが、鉄の剣では螺旋剣にした所で倒せる魔族は一体のみだろう。狙撃に近い遠方からの攻撃手段があるかもしれない。ここまで後手に回ってしまうと分が悪い。念動魔術で空を駆ける。「逃げるぞマリー!」「戦わないの?」「こいつを使えば戦えるだろうが、いきなりの実戦が魔族相手は分が悪い、一旦体制を立て直す」全速力で王宮を目指す。魔族側も羽を展開して追いかけてくるがレルゲンの方が速い。王宮まであと少しという所で、
常に気を張っていては身体ではなく心が疲弊する。そこで兼ねてより約束していた鍛治屋、もとい街のぶらり旅をレルゲンが提案したのだった。「いいわね!私も振り回されてちょっと気分転換が必要だと思っていたのよ。今からだと陽がすぐ落ちちゃうだろうし、明日行きましょう!」「分かった」マリーが予想していたよりかなり乗り気な反応をする。余程ストレスが溜まっていたようだ。次の日、軽く朝食を済ませて、出かける準備をする。もしもの時の為に剣を一本背負い込み、待ち合わせに指定された噴水のある広場に足を運ぶ。マリーを驚かす品物を鞄に詰め込む事も忘れなかった。約束の時間までまだ余裕があった筈だが、感知し慣れた魔力反応が既にある。「お待たせ、マリー」「ううん、私もさっき来たところ」白いワンピースに茶系の帽子、目には最近流行っていると噂されている日避け用の眼鏡をかけ、白いサンダルを身につけている。結ばれている金色の髪は真っ直ぐに下され、普段とは全く装いが違った。思いがけず見惚れてしまい、一瞬言葉に詰まってしまったが、すぐに彼女の容姿について似合っている旨を伝える。「とても似合っている、綺麗だよ」「そう?時間をかけた甲斐があったわ。でも貴方、それいつもと同じ旅の格好どうにかならなかったの?」「すまない、街にふさわしい服を持っていなくてな。流石に騎士服を着るわけにはいかず…」これには本当に申し訳ない気持ちになる。こうなるなら、セレスティアに相談しに行けば良かったかも知れない。「まぁ、いいわ。それなら貴方の服装を私が見繕ってあげましょう!」「それはありがたい」「で、その大荷物はまた何?」突っ込み所が多すぎて頭が痛いと言わんばかりに額を抑えるマリー。ここで挽回しなければと思い、鞄の中から念動魔術で、驚かす為の品を出す。「それって」「そうだ、アシュラ・ハガマの尻尾にある増幅器代わりになっていた鉱石と、ユニコーン二種の角と魔石だ」「なるほどね、それらを持ち込んで唯一無二の装備を作ろうって訳か」「そうだ、アシュラ・ハガマは武器として、ユニコーンは魔石を使って武器の核にしようと思う。残るはユニコーンの角二本と魔石一つだが、これはマリー。君の防具か武器、もしくは装飾品を作って貰う予定だ」思いの外喜ぶという感じではなく、冷静に