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7話 乱入者

last update Last Updated: 2025-11-27 21:33:40

後一歩のところで上空に感じた覚えのある魔法陣が闘技場全体を覆う。

お互いに戦闘を瞬時に中断し、

何が起きているのか情報を集めようと周囲を見渡す。

(これはユニコーンの時と種類は違うが、同じ奴が起動しているな。

となると魔法が飛び交っていた闘技場の魔力を使ってまた魔物を召喚するつもりか?

だがそれならもう対策はある)

彼が右手を空に掲げ、自身の知覚できる感覚を広げる。

仮想的に可視化させた周囲の環境を取り巻く魔力を一点に集めるべく、

魔力糸無しで念動魔法を発動させる。

だが、彼の思惑通りにはならなかった。

確かに魔術の発動は出来た、一瞬だが周囲の魔力を集めることも。

しかし、魔術の「継続」が出来ない。

(これは、消滅魔術か…!)

消滅魔術とは魔法や魔術の発動を検知、

即ち魔力が体外に放出された段階で消滅させる魔術だ。

これもまたユニコーンの時と同じ魔術師がやっているのだろうが、

こんな代物扱える人物など世界に数えるくらいしかいないユニーク魔術に近いほど珍しい。

ここで始めて事の重大性に気づく。

(どんなに犠牲を払ってでも消したい奴がこの中にいる…!)

足に魔力を込めて垂直跳びをする。

純粋な筋力による跳躍と、魔力による跳躍の付加。

その高さおよそ二十メートル。

跳躍しきってから念動魔術による空中浮遊が即座に消滅魔術によって落下を始めようとする。

しかし落下を始めるよりも速く、

念動魔術を再度発動。再度、念動魔術の消滅。再度、念動魔術の発動。

この消滅と発動の繰り返しを高速で繰り返すことで空中浮遊を維持する。

始めに魔力を集めようとした方法を思い出し、

空中の残存魔力の流れを感知、魔法陣の位置を逆探知する。

(一、二、三、四……五個だな)

五か所から魔力を吸い上げており、

星形の頂点を位置する場所に魔法陣が張られているようだ。

観客はまだ彼女との戦闘の最中で彼がルール違反をしたと思っている。

空中浮遊を解除し、大会運営に用意されている椅子が集まる上座目掛けて移動する。

この異常事態を伝えるために大会運営席に到着したが、一歩遅かった。

黒衣のフードに身を包んだ連中が、

恐らく毒が仕込んである武器を片手に運営陣を拘束している。

それを見た彼は毒武器を魔力糸無しで操り、

毒武器の所有者に向けて刃先を強引に向かわせた。

何とか抵抗しようと力を込めるフードを被った賊の抵抗空しく、

自害するように毒武器を自身の身体に突き刺す。

即効性の毒だったのか、黒衣の集団が苦しむようにもがき、倒れ、息絶える。

「おかげで助かった」

「切られていないか?」

「ああ、大丈夫だ」

「そうか、ならここからでいい。

大会の中止を宣言してくれ。

誰が本当に狙われているかまではわからんが、まだ賊がどこかに潜んでいる」

「わかった、すぐに放送を行うように放送席に手配する」

「その放送室とやらは、本当に安全なのか?」

「まさか、そこまで賊が侵入しているというのか…」

「可能性はある。この闘技場にはすでに魔法陣が五か所仕掛けられている。

効果はわかっているだけでも消滅魔術。

ユニコーンが出現したことも関わっていると考えたほうがいい」

「消滅魔術!?でも君は今魔術を行使して…いや、そんな前から賊が準備を…」

思わず狼狽する大会主催者。それほどまでに消滅魔術は珍しいのだ。

「とりあえず今は避難が先決だ。放送室の他に方法はないのか」

大会主催者は俯きながら

「申し訳ない。私はどうしたら…」

「そうか、なら非難はこちらでやる、あんたらは先に避難してくれ」

「わかった。この件が片付いたら、何かお礼をさせてくれ」

「未来を語るにはまだ早い」

大会主催者に倒れた賊の毒武器を拾って襲い掛かる影が一つ。

その新たな賊は黒衣のフードを被るわけでもなく、大会運営者の一人だった。

難なく新たな賊を念動魔術の重ね掛けで停止させる。

「くそぉ!どうして体が動かない!魔術は封じたはずではなかったのか!」

「こんな風に、内部に賊が入り込んでいることも考えた方がいい」

「どうして、お前が…」

他に賊がはいりこんでいないか目に魔力を集中させ、

全員からにじみ出る自然魔力の揺らぎを確認する。

(他に賊は…いないな)

「それで、こいつはどうする?」

「拘束してくれると助かる」

「拘束は無理だが気絶させることはできる。後はそっちで何とかしてくれ」

念動魔術で拘束していた賊の鼻と口周りの空気を固定する。

次の瞬間、呼吸ができなくなった賊は白目をむいて脱力状態になる。

ぱっと見は勝手に白目をむいた賊に驚きつつも、

彼の魔術によるものだと納得する主催者一同。

すると、いい加減痺れを切らしたのか、大きな声で彼女が悪態をつく。

「ちょっと、いつまでそこにいるのよ」

「じゃあ、あとはこっちで何とかする。あんたらは自身の安全だけを考えてくれ」

「しかし、それでは市民たちが…」

主催者が言い終わる前に、金髪の彼女の元へと降りる。

「貴方、魔術が使えるの?私はこの通信装置が使えないんだけど」

彼女が差し出したのは遠隔との通信が可能になる魔術道具。

仮にこれを換金すれば中央の一等宿泊施設に十日は遊びながら泊まれるだろう。

「ああ、俺なら使えると考えてもらっていい。

それよりも今俺が持っている情報を伝える。一度で聞き取ってくれ」

観客からは依然として悪態をつく人もいるが、

何かおかしいと感づく人もおり、一目散に会場を後にする危機回避能力が高い人もいる。

はっきりいって、パニック一歩手前の状態だ。

「俺は一旦仕掛けられた魔法陣を確認してくる」

「待って」

その場を素早く後にしようとする彼に、

彼女は小さく、それでいてはっきりとした口調で告げる。

「私はマリー、中央王族機構、第三王女。王位継承権二位、マリー・トレスティア」

「第三王女!?」

さすがに高貴な方だとは勘づいてはいたが、まさか王女だとは…

「ばか!声がでかい!!」

「すまん。あ、いや、申し訳ございません。」

「そこはいつも通りでいいわよ、ばか」

「で、話を戻すが、その第三王女様は、自分が狙われていると思ったわけだ」

無視。

(ん?なんか気に障ること言ったか?あっ、なるほど)

気づいて言い直す

「マリーは自分が狙われていると思うわけか」

「そうよ」

まだ第三王女様って言ったことを気にしているご様子。

「なら一緒に来るか?ここに一人でいるよりかは安全だろうし」

「いいの?」

「全身骨折しているマリーの先生よりかは役に立ってみせるよ」

「それは貴方のせいでしょ」

お互いに少し笑う。

緩みそうになった空気を引き締めたのは意外なものだった。

「あー、これ聞こえている?ゴホン、

闘技場にお集まりの皆さーん!ワタクシ、コワーイ暗殺ギルドの長でございます!

これから皆さんにはー?

闘技場からの鬼ごっこにご参加いただきたいと思いまーす!

ルールは簡単。各所に魔物を召喚する儀式が施されている闘技場から、

生きて脱出する事。

晴れて脱出出来た方はー、はぁ、何処へなりとも行ってください。

ゲームは終了になってしまいます。しくしく。

まずは魔物一体から鬼ごっこ、開始いたします!」

急な放送に戸惑う観客たちだが、まだ放送に半信半疑な様子。

開始の合図をしたはずの放送席の男のような声が、少し苛立った口調に変わる。

「あれ?あれあれ?ゲームはもうスタートしているんですけどねぇ。

これは頂けません…しょうがない、皆さんがそんな態度だからいけないんですよ?

魔物召喚、「全部」やっちゃいな」

魔物の気配が一つから五つに増える。

一刻も早く全ての召喚陣を破壊しなければどんどん屍の山が増えていくだろう。

小さな街とはいえ、ほぼ全ての住民達がこの闘技場に足を運んでいると言っていい。

店を休業してまでこの催しに参加しているところも珍しくない。

ここでほぼ同時に二人が駆け出す。

(やはり放送室はすでにダメだったか)

「マリー、これから召喚陣を破壊しにいく、

消滅魔術も同じ陣に組み込まれている筈だ」

「陣の場所は?」

「大丈夫、全て分かっている。

一番近いところから破壊しにいくが、

奴の言う通り魔物が魔法陣の近くにまだうろついている。

俺が魔法陣を破壊するまでの間、魔物の「注意」だけでいい、惹きつけられるか?」

「別に倒してしまってもいいんでしょうね?」

「できるならな」

お互いにフフっと笑うが、ここで彼が釘を刺す。

「だが一箇所だけ、ここから一番遠い場所だがユニコーンよりも強い魔力反応がある。

そいつはこの消滅魔術の状態だと俺も厳しい」

「分かった、その魔物だけは貴方に任せるわ。

なら、先に魔物の魔法陣よりも先に消滅魔術の方を何とかした方が良いわね」

彼が頷く。

「マリーの先生!近くにいるなら返事しろ!」

「あいあい、ここにいるぜ」

何処からかぬっと出てきた白髪の剣士が彼らと共に走る。

「この木剣をやる、無いよりマシだろ。

アンタは俺達と逆方向から魔物を叩いてくれ。

そっちならせいぜい二段階目か三段階目だろう。

その折れた両腕でも何とかできる筈だ」

「簡単に言ってくれるねぇ、まぁ、何とかして見せるさ」

「頼んだ。最後の魔法陣の時に落ち合おう」

「それは良いけどよ、ボウズと嬢ちゃんは木剣だけで戦うつもりか?」

「流石に自分の剣が無いと惹きつけるにも限界があるわ」

「心配ない、そら来た」

こうなるだろうと、遠隔で預かり所からすでに念動魔術でこちらに移動させていた。

彼女の剣は一度見て覚えている。

剣自体に魔力が付与されていたからこういった事態ではわかりやすい。

逆に彼の剣の方が分かりづらい、というより分からなかった。

片っ端から様々な剣を手当たり次第念動魔術で移動させてきた。

闘技大会も進み、預かり所には剣自体が少なかったが、

十本はまだあったので全て持ってくる。

一斉に向かってくる剣を見ながら人二人は目を丸くしたが、すぐに理解する。

((先生と)(俺と)やった時はまだ本気ではなかった)

マリーは自身の愛刀を手にし、

白髪の剣士は比較的軽めのショートソードを一度は手にしたが、再び木剣に持ち替える。

「よし、行こう」

「死ぬなよ、嬢ちゃん」

「そっちこそ」

笑い合い、お互い逆の方向へと走り出す。

走りながらも不安の種が消えない彼を見てマリーが心配そうに声をかける。

「宿屋の親子のこと?」

「ああ、この闘技場に来ている筈だ」

気がかりなのは店主の親子だ。

この闘技場まで来ている筈だが、こうも人が多いと個人の特定は不可能。

素早く魔物を排除し、魔法陣を破壊する事が結果的に命を救うことにつながる、筈だ。

マリーも心配しているようだが、さすがは王女様。思考の切り替えが早い。

「私も心配だからさっさと片付けて、

お祝い金たっぷりもらって、それで宿屋の皆んなにご馳走してあげましょう」

「そうだな」

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  • 念動魔術の魔剣使い -大切な人を護り続けたら、いつの間にか世界を救う旅になりました-   6話 特別試合

    大会もいよいよ最終戦木剣のみの打ち合いになる相手はどんなお貴族様かと思っていたら「なるほど、相手は君か」「ええ、まず試合が始まる前に謝罪をさせて頂戴。私が有利になるルールに何度も変えさせて」「いいさ、結果は変わらないからな」「ふふっ、貴方そんな冗談も言えるのね」その冗談とは、これほどまでの縛りルールでも勝てると思っているのか。またはそんな減らず口を言えるタイプだったのかと思っているのかは分からないが、お互いに決勝まで駒を進めてきたもの同士。気分が高揚していた。「特別試合、始めてください!」最初に動いたのは彼女の方だった。木剣の種類は彼女の背丈には不釣り合いな長さで、両手で主に扱うロングソードに近い形状。それを片手で簡単に上段へ振りかぶり、飛び上がる。剣本来の重量と、彼女の並外れた膂力。飛び上がってから振り下ろされるまでの間に落下する重力を掛け合わせた、必殺の一撃。一連の動作速度も申し分ない。これをまともに受ければ幾ら彼でも木剣を破壊されて試合続行不可能となり判定負けとなるだろう。だが、巨大な威力を持った一撃を受け流す方法は白髪の剣士との対決でよく「見た」彼女の一撃が彼の剣に当たってから、上体を捻りながら剣同士を滑らせて受け流す。「なっ」(その技は先生の…!)(悪いな嬢ちゃん、技見せすぎた)このまま剣を滑らせながら前進し、彼女の腹に一撃を加えて試合終了かと思いきや、片手で振り下ろされたロングソードを両手で持ち直し、無理矢理空中でガードの体制を作る。木剣同士が打ち合い、彼女が開始位置まで飛ばされるが、これを自慢の膂力で何とか姿勢を崩さない。着地の際によろけるなら、そのまま追撃をしようと準備していた彼だったが、不発に終わる。「貴方、真似っ子は随分とお上手なのね」「そちらこそ、見た目によらず力強すぎるだろ。何食ったらそんな力つくんだよ」「失礼な!食べているものは普通よ!」食べる量について言わない辺り、大飯食らいなのかなと思ったが、その後の展開が容易に想像できたのでやめておく。今度も先に仕掛けたのは金髪の彼女。だが今度は飛び上がらずに地上で細かく攻撃を仕掛ける。彼はまだロングソードの遠い間合いで、あたかもショートソードの用に扱う彼女に対応がやや遅れている。それでもまともに打ち合わず、躱し、いな

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